社会保険労務士試験を受験された皆様、こんにちは。
社労士試験 平成28年(2016年)の合格発表が11月11日(金)があり、試験の概況が次の通り公表されています。
●合格者数→1,770名
●合格率→受験者39,972人で4.4%(過去2番目に低い)
●択一合格基準点&救済科目→42点以上(常識、厚年、国年は3点以上)
●選択合格基準点&救済科目→23点以上(労一、健保は2点以上)
合格者数、合格率をみても非常に厳しい試験であったといえるでしょう。
その理由との一つとして、択一上位層の方でも2点をとっている方が多かった厚生年金保険法に救済が入らなかったことが挙げられます。
厚生年金保険法2点の方の人数は10,000名余です。このうち択一42点以上の割合は分かりませんが、仮に救済が入れば数百人単位で合格者数は増えたものと思われます。
厚年は過去の救済ランキングでも1位であるように、非常に救済されやすい科目といわれています。
にもかかわらず、救済が入らなかった理由は、救済ライン「1点以下割合30%以上」の壁の高さといわゆる「追加補正」が行われなくなったことが挙げられます。
【得点状況】選択式 厚生年金保険法の分析
次の表は、当サイトで9月28日に紹介した厚生年金保険法の救済予想のデータに、今回公表された本試験の得点データを追加したものです。
厚年は、例年、スクール層データはそれなりに高いが、無勉層が押し下げて救済ラインに届くというパターンが多いです。
ユーキャン層データを踏まえた管理者の全体予測は、「世界がもし100人の村だったら」の手法をつかって、得点分布と平均点の整合性がとれるように試算してみたものです。
1点以下割合30%以上の壁は高く、超えるとしてギリギリ超えるくらいと予想しました。
本試験データを見ると、前述の傾向は続き、スクール層データを無勉層が押し下げた結果、救済ラインに近づき、2点以下割合50%以上には届きました。しかし、もうひとつのライン1点以下割合30%には29.7%とわずか0.3%届かずに救済措置は入りませんでした。
つまり厚年2点の方は、「1点足りず」ではなく「0.3%足りず」で合格を手に入れることができなかったのです。あと120人、2点の方がいれば救済されたのです。
実は平成27年の厚年救済も救済ラインギリギリ超えるくらいの得点分布でした。
TACのデータをみると、平成27年の方が若干点数がよくなっています。平成28年は、27年に比べほんの少しスクール層の得点がよかったため、無勉層がそれを押し下げても最終的には救済ラインには届かない格好になりました。
無勉層による押し下げはありましたが、爆下げとまでいかなかったのは、数字と改正がないことが要因でしょう。ABCは壊滅状態でも、DEで2得点というパターンだと思います。
一方で択一上位層は在職老齢年金の計算はお手のものですが、その前提となっている条文の用語については「なんとなく分かっている」状態で、ややこしいいダミーの選択肢が混ぜられた結果、3点を確保することが難しかったという面はあるでしょう。
このように「1点以下30%以上」の壁はとてつもなく高いのです。
1点以下30%以上の壁の高さ
選択式の救済ラインは次の通りとなっています。
かつ
②1点以下割合が30%以上
そして、今回厚生労働省のHPで公表された、科目最低点の補正基準の原文は次のとおりになっています。
各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。
ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合
本文の青字の部分が「2点以下50%以上」の部分で、ただし書きのⅰ) が「1点以下30%以上」の部分です。
つまり、現状の救済基準は、本文で「2点以下割合50%以上を救済するよ」、ただし書きで「でも1点以下割合30%以上でないとダメ」という書き方になっています。原則と例外の関係です。
ということは「2点以下割合50%以上」なら殆どの場合に救済されて、かなり限定的な場面で救済されない、という状況であるべきだと思いますが、実際は「1点以下割合30%以上」を超えるかどうかが全てで、「2点以下割合50%以上」が有名無実化しています。
「1点以下割合30%以上」なら確実に「2点以下割合50%以上」もクリアしているし、反対に「2点以下割合50%以上」であっても結構な確率で「1点以下割合30%以上」をクリアできない状況があります。
本年も、「2点以下割合50%以上」に該当した科目が5科目、そのうち3科目が「1点以下割合30%以上」に届かずに、救済が見送られてます。
従来は、救済ラインに届かなくても救済を行う「追加補正」の措置によって、2点以下割合50%以上「のみ」でも救済というバランスがとられていました。もちろん、裁量の余地が入る問題点を抱えていましたが。
しかし、厚年には追加補正は行われませんでした。今回のルールの公開によって今後も追加補正が行われることはなくなるでしょう。「原則として引き下げを行わない(=引き下げを行うこともある)」の文言はありますがね・・
救済ラインが明確になったこと自体はいいことだと思いますの。だからこそ、本来は例外扱いの「ただし書き」が実質的な救済基準になっている現状について見直しを検討頂きたいものです。
最後に極論を・・
あと、最後に、こんな極論を考えてみました。社労士受験生が、それぞれ家族や友人を1人ずつ同伴受験させるという作戦をとったらどうなるのでしょう。
受験者は倍の80,000人になり、同伴者40,000人が0点提出をしたら、選択式の基準点はすべて1点、択一式の基準点は30点台になり、ちょっとでも勉強している受験生は全員合格しそうです。
受験料を倍の19,000円払えば合格ですw
このように、受験者数の裾野が広くなるほど(無勉層が増えるほど)、救済ラインが下がり合格者が激増、受験者数が減るほど(無勉層が減るほど)、救済ラインが上がり、分母減少と合格率低下のダブルパンチで合格者数が激減→さらに受験申込が減っていって・・という、おそらく制度運営側にとってもその意に反する結果を招きかねないのが、現在のルールです。
得点下位層の動向に左右される基準点ルールで本当によいのでしょうか。
次回は、択一式の総得点について分析したいと思います。次の記事からどうぞ。

選択式の各科目の分析についてはコチラからどうぞ




