【最高裁判例】電通事件①過労死(過労自殺)と安全配慮義務【社労士】

最高裁判例

社会保険労務士試験の受験生の皆さん、こんにちは。

 

平成29年(2017年)の試験に目を向けると、ストレスチェックの本格実施、過労死対策白書の刊行、そして、大手広告代理店での痛ましい出来事が大きく報道され、働き方改革が政府方針として掲げられる中、将来、平成28年は過労死対策元年と呼ばれる年になるかも知れません。

さて、先般和解に至った大手広告代理店の過労自死の件で「過労死ライン100時間超えで労災認定」という解説をしているサイトやニュースが少なくないのですが、これは間違っています。
本件はいわゆる過労の末心臓病で死亡した場合の判定ルールである「過労死認定基準」ではなく、仕事上のストレスが原因がうつ病などの精神疾患が発症した場合の判定ルールである「精神障害認定基準」に従って労災認定されたものです。
具体的には評価が「強」とされる「仕事量急増+時間外労働100時間超」に該当→業務による精神疾患と認める→抑制力阻害の上での自死、で認定されたケースです。

以上、社労士試験対策としても「過労死(過労自殺)」に関するテーマの重要度が増しています。この「過労死(過労自殺)」に関するテーマの軸となるのが「最高裁判例 電通事件(平成12年(2000年)3月24日)」です。

今年は「奇数年の小畑労災」の年ですが、国・行橋労基署長(テイクロ九州)事件と並んで出題候補の筆頭といえるでしょう。

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今回は電通事件の概要をご紹介します。

「過労死(過労自殺)」の業務災害としての側面

労働者が過労が原因と思われるうつ病(精神疾患)を発症し自殺に至った場合、遺族は労働基準監督署に対し労災保険の遺族給付の請求をすることが可能です。

通常、自殺は労働者の故意とされるため、労災認定されませんが、過労→うつ病→自殺について相当因果関係が認められた場合、労災認定されて遺族給付が支給されます。

具体的には次の通りです。

業務による心理的負荷によって精神障害を発病した者が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定され、原則としてその死亡は労災認定する。

ただし、労災からの給付は法定の給付額が支給されるのみで、精神的損害(慰謝料)や逸失利益(亡くなっていなければ稼げたはずの給料など)などの全損害をカバーすることはできません

そこで、遺族は、労基署に対する労災請求と並行して、その労働者を雇用していた企業に対して全損害についての民事上の損害賠償請求労災民事訴訟)をすることが可能で、その勝ち負けは民事裁判で争うことになります。

「過労死(過労自殺)」の企業の安全配慮義務違反としての側面

この損害賠償請求は債務不履行などを理由として行いますが、債務不履行とは「安全配慮義務違反」です。現在この安全配慮義務は労働契約法5条で明文化されています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

簡単に言えば、企業は従業員が安全に健康で働くことができるように色々気をかけなきゃいけないよ、ということです。

条文上は「安全」といっていますが、メンタルヘルス(心の健康)対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。

労働契約法には罰則がありませんが、企業が安全配慮義務を怠った場合は民法415条の債務不履行などを根拠に民事上の損害賠償責任を負うことになります。
ちなみに、今回のいわゆる「第二の電通事件」では、労働局の過重労働撲滅特別対策班(通称カトクが企業本社に抜き打ち立ち入り調査を行ったことで注目をされています。11月7日には労働基準監督署からの強制捜査が入り、「労働基準法違反で立件視野」という報道がなされていますが、これは過労死そのものに対してではなく、当企業で労使協定で届出した延長時間を超えた長時間労働が常態化していることに対してのものです。

さて、本題に戻して、この企業の安全配慮義務について社会的に大きく注目され「過労死」という言葉が浸透するきっかけになったのが「最高裁判決 電通事件(平成12年(2000年)3月24日)」です。

電通事件の概要

この事件は、長時間労働に起因してうつ病を発症し、自殺に至った事案に関し、東京地裁が企業側に対して安全配慮義務違反があったとして、1億2,588万余円の賠償責任を認めたものです。
その後、最高裁判決を経て、東京高裁での差戻審において企業側が1億6,800万円の支払義務を認める旨の和解が成立しました。

「電通事件」は、高額な損害賠償額とあわせて、過重労働についての企業側の民事上の損害賠償責任を認めた初の判断として注目され、過労に対する企業責任のあり方についてのターニングポイントになり、その後の労働契約法での安全配慮義務の明文化に繋がります。

次回、「電通事件」の裁判の争点のポイントについてまとめます。次の記事でご覧下さい。

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